スペシャルインタビュー

宗像 俊太郎 会長 × 久保田 朋子 先生 × 林 慶 先生【自分の信じた道を正解にする生き方を】

冊子掲載日:2024年3月
アメリカの大学教授、獣医学通訳者、JAHA会長。
それぞれが歩んできた足跡をたどり、次世代の方がこれからどう生きるかのヒントを幅広く語っていただきました

林 慶

コーネル大学教授。東京大学客員教授
東京大学獣医外科卒業。米国獣医師免許取得後、ウィスコンシン大学小動物外科レジデントを経てミシガン州立大学助教授、カリフォルニア大学准教授、コーネル大学准教授を経てコーネル大学教授に就任。博士(獣医学)、米国獣医外科専門医(ACVS)、日本小動物外科専門医(JCVS)。


久保田 朋子

獣医学通訳・翻訳
幼少期を英国で過ごし、11歳で帰国。東京農工大学農学部獣医学科卒業後、ダクタリ動物病院広尾セントラル病院(現東京医療センター)に就職。小動物臨床に従事しながら、通訳業をスタート。すぐにその魅力の虜になり、第一子の出産を機に臨床から離れ、通訳・翻訳業に専念することを決意し、日々邁進中。


宗像 俊太郎

JAHA 会長。あさか台どうぶつ医療センター 院長、埼玉県獣医師会 副会長、日本獣医麻酔外科学会 理事
北海道大学農学部卒業後、麻布大学獣医学部編入。あさか台動物病院を承継する形で独立。日本獣医生命科学大学にて博士号を取得。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科経営管理専攻にてMBA取得。


最初から「今の自分」になりたいと志していたわけではない

ーー
獣医師になろうと思われたきっかけを教えてください
林:
元々は動物園の飼育係か国立公園の管理人、または図書館員になりたいと思っていました。その後、哺乳類、爬虫類、両生類を含む高等生物学を学ぶつもりで大学に進学しましたが、あっさり勉学につまずいたことと、実学への興味が強くなったことから、獣医師になろうと決めました。
久保田:
私が小学生の時に母が何気なく言った「獣医さんっていいわよね」という言葉が獣医師という職業を意識するきっかけでしたね。魚のつかみ取りやカエルの解剖の授業などに抵抗感が大きく、動物の生死について感受性の高い子供だったとも思います。
宗像:
私の場合は父が開業獣医師でした。父の背中を見て幼い頃から獣医師になって社会に貢献したいと漠然と考えていました。
ーー
大学卒業後から今に至るまでのキャリアを教えてください
林:
自身が手術を受けた体験から獣医外科学を専門的に勉強したいと思ったこと、そして日本の大学時代の恩師達に外科学を本格的に勉強してくることを強く薦められたことから大学卒業後にアメリカの大学院で獣医学を学ぶことを決心しました。お金もなく、英語も話せない状態でしたので本当に大変な生活でした。月末になると食費を削っても光熱費が払えず暖房が入れられないということを幾度も経験しましたね。
米国獣医師免許を取得した後にアメリカ獣医外科専門医を取得し、それ以降は3つの大学で教員として小動物の外科の教育、臨床、研修に貢献するための努力をしてきました。これまで素晴らしい指導者に恵まれてきたと思います。

昔は自分の手術でできる限り多くの動物を救おうという傲慢な考えを持っていました。しかしどんなに頑張っても、年間500頭以上の手術はできません。それに対し、例えば、年間100名の学生に正しい診断技術を教育すれば、10,000頭以上の動物の健康が改善する可能性を秘めていることに気付き、近年ではオンライン授業などを応用してさらに世界中の多くの人との教育体験に関われることを目指しています。
久保田:
今は獣医学通訳という仕事と巡り合えて本業としていますが、獣医師になった時には通訳を仕事にするとは全く思っていませんでした。私はぼんやりと動物が好きだから獣医になったので、好きなこと、やりたいことを見つけて行動している友人たちを目の当たりにした学生時代は焦燥感ばかりがありました。大学も就職先の病院も親元から通えるところをメインにして選んだくらいです。

獣医学通訳という仕事との出会いは、勤務していた病院の院長先生の薦めでJAHA の通訳トライアル生に応募したことがきっかけです。通訳を始めて、最初の5、6年は臨床もしていましたし、何度かつまづきはありましたが、諸先輩方に助けていただきながら、続けてこれました。

人をつなぐ通訳という仕事には大きな喜びを感じます。おこがましいですが、各講師のステキさがどうしたらもっと伝わるか、先生方の引っ掛かりがどうしたら一番スッキリするかと、1つ1つの案件に夢中になり、もっと伝えたい、つなげたいと思っているうちに今に至りました。出産は2回経験し、そのたびに仕事と家庭のバランスに悩み、今も正解は分かりませんが、周囲と支えてくれる家族に感謝しつつ、好きを大事にしていけば、つながるものがあると信じています。
宗像:
大学卒業後は勤務医として関東の動物病院で数年間働いた後、父の動物病院を承継しました。当時は獣医師は私1人、看護師1人でしたのでがむしゃらでしたね。父からは「臨床で目の前の患者さんを救うことも大事だが、学位を取得するために論文を書くことで、獣医学のレベルが向上する」と言われてきました。父は癌で亡くなったのですが、病床で自身がなし得なかった学位取得の夢を私に託し、40歳の時に大学院を卒業し学位を取得することができました。今の動物医療業界があるのは先輩方のおかげだと常に感じており、私が力になれることがあれば業界のためにお力添えをしたいという思いです。

論文を書くことは獣医学業界をより良くすること

ーー
論文を書くことの意味についてもう少し詳しく教えてください
宗像:
新たな知見が増えることで獣医学が発展し、多くの患者を救うことに繋がります。また我々が海外に論文を投稿することで日本の獣医学の認知度を高め、世界の獣医学をも発展させる可能性があると考えています。
林:
現在の獣医学には、残念ながら、行き当たりばったり的、こんなやり方をしたらうまくいった、偉い先生にこんな話を聞いた、などを基準に治療決定をしている現実が一部あります。これでは患者がかわいそうです。これまでに失敗した経験を二度と繰り返さないように、特に合併症を正直に報告することが論文発表の最大の意義であると思います。

また、現実的に英語論文が世界中で最も読まれる可能性があり世界共通の言語という形で機能しますので、日本の獣医学の英智を世界に伝えるべく、私がなんらかのお手伝いができるのであれば、積極的にお手伝いしていきたいと思っています。なお、発表者にとって英語の科学論文というのは一生の財産となりますので、特に若い方々にはそういう意識でチャレンジしていただきたいという思いがあります。
久保田:
英語に関して付け足すと、AIが益々発達していく中で、非認知能力が重要だと良く言われています。英語も上手にしゃべることよりも気持ちを汲み取る、伝えるというところが大事でしょうし、どんどん話すこと、書くことにチャレンジしていったら、スキルはある程度後からついてくると思います。通訳がいらなくなったらそれは寂しいですが、皆さんが直接話せるようになったらどんどん議論を深められますし、何よりきっととても楽しいですね。

動物病院でまとまるからこそ解決できる課題がある

ーー
現在は数多くの学術団体が存在しますが、その中でJAHAらしさはどの点にあるとお感じですか?
宗像:
学術だけではなく、CAPP(高齢者施設、病院、学校などを訪問し、動物のもつ温もりや優しさにふれていただくボランティア活動)などの社会貢献活動を行っているところだと思います。従来よりJAHA は人と動物との共生をテーマに掲げていましたが、最近では人と動物および社会環境の幸福すなわち「One Well-Being」を提唱しています。なにより社会に向けて動物と共に生きることの素晴らしさを広めていく団体であることが、学会等他団体とは異なり、JAHAらしいと考えています。またJAHAは会員同士の絆も深く、共に協力し、動物病院業界の抱える課題を解決していけるのではないかと感じています。

今後ペット飼育数の減少を食い止めるためには、動物を飼うことの素晴らしさを社会に伝えることが大変重要ですが、JAHAは以前よりそのような活動を行っています。獣医学に関するあらゆる知識、スキルはもとより、ご家族に対しマナーを含めた動物との正しい暮らし方を伝えていくことで、動物の存在価値が一層社会に認められると信じています。
久保田:
JAHA の継続教育セミナーに携わらせていただいてきた者としての勝手な感想で恐縮ですが、ヒューマン・アニマル・ボンドと人と動物の福祉を教育から支え、投資してくださっていて頭が下がります。セミナーの中身も毎回どっしりと重みがあり、私は毎回あっぷあっぷしながら迎え、終わるとどっと疲れますが、しばらくするとまたやりたくなります。
林:
伴侶動物の健康と福祉を促進する活動を主題とされている点だと思います。その目的のために、日本でよく起こる病気のデータを集積し考察されることを期待しています。

学生へのメッセージ

宗像:
2つお伝えさせてください。1つは、獣医師の職域は小動物臨床だけではありませんが、もし小動物臨床を志すのであれば1 つの命に真剣に向き合い、動物やそのご家族の気持ちに寄り添う心を大切にしてください。その寄り添う心を糧にできればさまざまな困難も乗り越えられるはずです。もう1つは、若い皆さんが獣医学を発展させることで獣医師の社会的認知度を高め、そして動物を飼うことの素晴らしさを社会に浸透させていただきたい。皆さんの力で動物が苦手な人を少しでも減らし、いつかは欧米のように動物を大切な家族の一員としてその命を尊重し、動物と共に行動できる環境が拡がるような、真に人と動物との共生ができる社会になることを期待しています。
久保田:
現代は「好きなことを見つけよう圧」が強すぎると感じます。獣医学通訳という今の仕事は私が最初に目指した職業ではありませんでしたが、思い切って踏み出してみて本当に良かった。最初から強い「好き」じゃなくても、「楽しいな」と「人の役に立ちたい」を大事にしていると、色んな発見があって、導かれていくのかもしれないと思っています。
林:
獣医臨床は、重労働で精神的に辛い場面も多いプロフェッションです。しかし、苦しんでいる動物のために、最も直接的に働きかけることのできる機会があるのも事実です。動物も獣医師も幸せになれるための、私なりのコツを2つ考えました。1つめは、頑張って優秀な獣医師になること。そうすると失敗してお互いに苦しむことも減るでしょう。2つめは、動物の健康管理と予防医学に集中した獣医師になることです。究極的には、遺伝的に問題のある子犬、子猫を減らす何らかの努力に獣医師がより多く参加していくという使命があると、伝えたいです。

菊水健史 先生× 村田 香織 先生 特別対談【自分の仕事に誇りを持って学び続けるために】

冊子掲載日:2023年3月
今注目の「行動診療」。
この分野をリードするお二人に、今の仕事に進むきっかけから、仕事や研究を続ける意義や哲学など、幅広く語っていただきました

菊水 健史(博士 獣医学)

麻布大学獣医学部教授。介在動物学研究室
東京大学農学部獣医学科卒業。製薬会社勤務を経て、東京大学農学生命科学研究科(動物行動学研究室)助手。その後、タフツ大学(アメリカ)へ留学。2007 年より麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室准教授、2009 年に同教授。2017 年から現職。
著書「愛と分子 惹かれあう二人のケミストリー」(東京化学同人)、「ヒト、イヌと語る: コーディーとK の物語」(共著・東京大学出版会)など。


ーー
菊水先生から見た村田先生は?
菊水:
日本においてイヌの幼稚園を先駆的に始められたパイオニア!
村田先生は私の研究室の学生でもありましたが、実質的には私の先生にあたります。
村田香織(博士 獣医学)

もみの木動物病院副院長。㈱イン・クローバー代表。こいぬこねこの教育アドバイザー養成
講座講師。獣医行動診療科認定医。
麻布大学獣医学部獣医学科卒業。動物医療従事者や飼い主さん向けセミナーの開催実績多数。人と動物が楽しく集うカフェ「ここっと」(兵庫県)運営。
著書「こころのワクチン」(Parade books)、「『困った行動』がなくなる犬のこころの処方箋」(青春出版社)、「パピークラス&こねこ塾スタートbook」(エデュワードプレス)など。


ーー
村田先生から見た菊水先生は?
村田:
こどもの心を持ち続けるおとなという印象です(笑)。菊水先生の素晴らしい業績の裏には大変な努力が。失敗してもチャレンジし続ける研究者魂がすごい。

子供時代の体験や想いが、今の研究や仕事へと繋がっている

ーー
今のお仕事に進もうと思われたきっかけを教えてください
菊水:
小さい時は鳥や魚、動物、そして森に囲まれた自然豊かな環境で育ちました。自分でとった魚を焼いて食べたりする中で、動物や植物との知恵比べを毎日していたように思います。鳥を捕まえようと罠を仕掛けていたのに、その場所がなぜか鳥にばれている、それどころか他の鳥たちにも伝わっているということがあり、動物の行動に興味を持つようになりました。今振り返ると、こういった子供時代の体験が、研究者として歩みを進める第一歩になっていたのだと思います。
村田:
子供の頃から動物が好きで、保護した犬や猫を育てたり里親探しをしたりしていました。最初は「動物を助けたい!」という気持ちでしたが、悩みを抱えた時期に動物が傍にいてくれたことが自分自身の大きな心の支えとなっていて、むしろ私が動物に助けられていたのだ、と気付いたんですね。そこから「人と動物が良い関係を築いて両方が幸せに暮らせる社会」を実現したいと思い、獣医師という仕事を選びました。
菊水:
私は村田先生のように子供の頃から今の仕事を夢見ていたわけではなく、大学卒業後に製薬会社で勤務していた時に、大学時代の恩師から行動学の研究室で助手として働かないかとお声がけいただいたのがきっかけで、研究の道へ進みました。その後、アメリカのタフツ大学に留学し、社会行動の基礎を学びました。留学中に家族の希望でスタンダードプードルの犬を飼い始めたのですが、イヌのコミュニケーション能力の高さに驚き、帰国後にイヌの研究を始めました。私自身獣医師ですので、動物とヒトのために貢献したいという思いが根底にあります。
村田:
私は大学卒業後にロンドンの開業獣医師であるブルースフォーグル先生の「ヒューマンアニマルボンド(HAB)」という本を読んだことから、HAB についてもっと知りたいと思い、アメリカやイギリスの動物病院に見学に行きました。あちらで見た犬たちは日本の犬とは異なり、公共の場で当たり前のように飼い主さんの傍で落ち着いて過ごしていたんですね。遊ぶときには違う犬のように元気いっぱいのびのびと走り回る姿も見て、人の子供と同じように犬にも教育が必要だと感じました。

全国に問題行動の予防のプロフェッショナルを増やしたい

ーー
現在取り組まれていることを教えてください
菊水:
イヌは最古の家畜としてヒトと共に暮らしてきた歴史の中で、ヒトと類似した認知能力を獲得し、ヒトとの” 絆”のような情緒的関係も結べるようになりました。イヌとヒト双方の関係を、歴史的、文化的な背景を含めて理解することが大切です。そしてその共生の歴史によって、ヒトがどのような影響を受けたのか、互恵的関係はどのように成り立っているのか、というのが現在の新しい疑問です。「イヌを通してヒト社会を見る」という感じでしょうか。

私たちの研究室では、ヒトとイヌの双方の、認知能力や身体生理反応、あるいは遺伝的変化を調べ、共生の成り立ちを明らかにしています。また、ヒトとヒトをつなぐ促進作用を持つイヌが、ヒト社会に介在することで地域コミュニケーションを促進し、子どもから高齢者まで、住民が多様性の中で信頼と安心を感じながらウェルビーイングを高めることができる地域コミュニティ形成の足掛かりを作れるかどうかの調査研究も実施しています。私自身獣医師ですので、動物とヒトのために貢献したいという思いが根底にあります。
村田:
動物病院内での行動診療のほか、「こいぬこねこ教育アドバイザー」の養成に取り組んだり、飼い主さん向けの執筆活動やセミナー活動などに取り組んでいます。飼い主さんは行動上の問題については動物病院に相談するというより、まず周囲の人に聞いたり、ネット情報などを頼りに解決しようとする傾向が強いと感じています。もちろんそれでうまくいけば良いのですが、行動診療に来られた時には間違った対応で問題を悪化させてしまっているケースも少なくなく、もっと早く相談してほしかったと感じることがあります。このような状況をなくすために、全国に問題行動の予防のプロフェッショナルを増やしたいと思っています。
ーー
JAHA の「こいぬこねこ教育アドバイザー」の講座の意義をどう見ていらっしゃいますか?
菊水:
問題行動は飼い主さんに対して大きな負担になります。イヌが家庭内で家族として飼育されるようになり、問題行動による課題が顕在化してきましたが、多くの場合、幼少期の経験によるものが多く、その大変重要な幼少期経験を支えるのが「こいぬこねこの教育アドバイザー」だと思います。この活動がさらに広がることで、イヌとの生活がさらに価値を持つようになると感じています。
村田:
3つの意義があります。
1つ目は、問題行動の予防です。脳機能が発達し、行動パターンが形成される子犬子猫期に教育をスタートすることは極めて効果的です。そのことによって飼い主さんとペットが幸せになれるだけでなく、近隣の人に迷惑をかけることがなくなるばかりか、周囲の人もハッピーにすることができると思います。行動診療そのものは、問題行動に悩む飼い主さんやストレスを感じている動物たちと一緒になって悩んだり考えたりする、地道で時間のかかるものですので、問題行動の予防によって行動診療を行わなくて済むようになるのが理想です。

2つ目は、飼い主さんと動物の間の絆形成です。飼い主さんが犬や猫の正常行動やニーズへの理解を深め、正の強化を使ったしつけをすることで、良い関係性が育ちます。絆形成により、幸せな動物と家族が増え、飼育放棄を含む不幸な動物が減ると思います。

3つ目が動物病院で働く我々にとっても重要な点で、フィアフリー(※)な診察や治療の土台づくりです。我々獣医師や動物看護師が、動物やその家族と良い関係を築いておくことで、診察や治療のストレスを減らし、質の高い医療を適切なタイミングで提供できます。

また、参加する病院スタッフの皆様にもとても良い影響があると感じています。
受講生たちは自分と同じ目標を持つ仲間と出会い、新人からベテラン、経営者やスタッフとして働く人など、年齢も立場も違った人が机を並べ、学生に戻って交じり合います。そこで起きる化学反応が素晴らしく、爆発的なエネルギーが生まれて、人を変化させます。「自分なんか」とか「人前で話すのは苦手」など否定的だった人が2年、3年するうちに人前で生き生きと、そして堂々と自分の正しいと思うことを話す姿を見るのは感動的です。
※動物が感じる恐怖、不安、ストレスを防いだり、緩和したりすること

「この講座で人生感が変わった!」と言ってもらえることは大きなやりがいになっています。

ーー
実際に動物病院スタッフや飼い主さんを指導することの魅力はどういう点にありますか?
村田:
受講生の成長を目の当たりにすることが楽しく、「この講座で人生感が変わった!」と言ってもらえることは大きなやりがいになっています。また、飼い主さんに「ようやくこの子がかわいく思えるようになった」や「ますますこの子が愛おしく思えるようになった」と仰っていただけた際は嬉しいですね。
特に「先生に会えて良かった」は殺し文句で、大変だけどやってきて良かったと感じることができます。

皆さんの活動や職務はイヌもヒトも幸せにすることに繋がります

ーー
JAHA(日本動物病院協会)に期待することを教えてください
菊水:
JAHA の理念「ヒトと動物の共生社会の実現に向けて」は、私自身の研究の中心にあるものです。これを基軸として、臨床獣医さんの教育や研究、つながりネットワークの強化にとどまらず、動物看護職の教育、地位向上、また動物のふれあい活動(CAPP)も、熱心に取り組まれており、まさに理念の実現化を進めておられると思います。今後もこのような活動を続けてほしいと願っています。
村田:
JAHA は動物病院に関わる人や動物すべてを対象としたとてもユニークな団体です。動物病院は獣医師だけのものではなく、愛玩動物看護師はもちろん、それ以外のスタッフやお世話になっている協力会社の方々、動物病院を利用する動物とその家族、さらには動物病院を取り巻く社会も含まれると思います。動物病院に関わる人と動物みんながハッピーになれる「理想の動物病院」を目指す団体として、これからも我々の業界をリードし続けていただきたいです。
ーー
学生の皆さんへのメッセージをお願いします
菊水:
そもそもヒトとイヌはどのような歴史を経て共生し、現代のような良好な関係になったのかを理解すると、今後のイヌの飼育やそれに関わる哲学のようなものがみえてくると思います。皆さんの活動や職務はイヌもヒトも幸せにすることに繋がります。それはとても大切なことです。ぜひ、自分の仕事に誇りをもって、学び続けてください。
村田:
獣医師や愛玩動物看護師の資格を持ってできる仕事の幅は広いので、その資格を持って自分が何をしたいのかということを大切にしてください。私が大学を受験したころ、獣医師になって何をしたいのかを問う小論文が課せられ、そこに「人と動物の理想的な共存関係を追求する」と書いたことを今でも覚えており、常に心の中にあります。獣医師あるいは愛玩動物看護師として、何をしたいのかを明確にし、その夢に近づくことができる職場を選ばれると良いと思います。

川田会長 × 篠田学術委員 × 上野専務理事 特別鼎談【"令和"の動物病院とJAHA】

冊子掲載日:2022年5月
企業の社会性が問われる世の中になってきました。これからの動物病院に必要なものは何でしょうか?
「JAHA就活マガジン」(学生向け就職情報誌・2022年度版)にも掲載された対談内容をスペシャルコンテンツとしてご紹介します。

動物病院を、一生涯安心して働ける職場に

篠田:
臨床3年目頃から自分を信頼してくれるご家族の方が増え、病院の仲間との絆も深くなり、臨床がどんどん楽しくなりました。出産・子育てを経験してからは人生観や獣医師としての考え方が大きく変わりましたね。出産はステップアップの機会でもある一方、仕事ができなくなる期間ができるのでそこを心配する方は多いですよね。
上野:
女性の出産を含め、一生涯を通して安心して働ける環境づくりが動物病院には求められていると思います。私の病院では、スタッフのライフステージの変化に合わせて病院全体で働き方を調整できるよう、ワークシェアリングなどの制度を導入してきましたが、出産を希望する方もそうでない方も、皆が気持ちよく働ける職場にしたいですね。
川田:
出産・子育てに関して女性が悩む原因には、動物病院側が「男性が育児に関わる環境を整備してこなかった」ということも根底にありそうです。最近は男性スタッフが育児休暇を取ることも増えましたが、男性が女性に合わせる文化を醸成する必要があると思います。
篠田:
出産は女性だからこそ経験できる貴重なものです。私自身、出産や育児を通して、初めて動物を飼う飼い主の不安な気持ちや動物を子供のように可愛がる飼い主の気持ちを、より汲み取れるようになりました。獣医療という素晴らしい仕事を、子育てを理由に諦めて欲しくないです。
川田:
JAHAは認定動物病院制度や各種認定制度を整備していますが、獣医療関係者がこの業界で一生涯働ける環境を作るという点でそれらの取り組みはとても有意義だと考えています。安心して働ける土台があれば、人材の流動性も出てきて、医療の均質化にも寄与することになるでしょう。

動物病院にはタイプがある。 必ず実習で見定めて就職して欲しい

上野:
これまでこの業界では、動物病院は「開業院長のもの」として捉えられてきた部分が多かったように感じます。そんな中、動物病院を「私たちのもの」として院長とスタッフが同じ視点を持って働くことを目指す病院も増えてきています。
川田:
技術が売りの病院では、病院は「開業院長のもの」感が強くなりがちですが、そのような病院の中には獣医療として光り輝くものがあるのも事実で、動物病院としてどちらが正しいと言えるものではありません。社会にとって自院の価値を最大化する組織作りを応援する、というのがJAHAの存在意義じゃないかな。
篠田:
私は就職活動時代にJAHAのJAHA認定内科医やJAHA認定外科医がいる動物病院を回っていたのですが、5年後この病院で働けているのかという視点を持っていました。共に働くスタッフが変わることはあっても院長は変わらないので、院長を尊敬できるかどうかは大きなポイントになると思います。
上野:
最後に、今の学生さんに就活を進めるうえでのメッセージがあれば頂戴できますか?
篠田:
最初の就職先は今後の働き方に影響を与える大事な場所です。少しでも興味を持った病院にはぜひ実習に参加してみてください。私の場合、実習時に生まれた繋がりは今でも続いており、たくさん参加してよかったと思っています。
川田:
病院探しで大事だと思うのは、労働条件などのコンプライアンスを遵守しており、院長が尊敬できて、フィーリングが合うか。つまり、JAHAの会員病院ってことですね(笑)。

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